前号【65歳以上の高齢者のプライバシーを丸ごと収集、「高齢者福祉に関するアンケート」は危険すぎる!①②】のつづき。
●センシティブなプライバシー情報を「郵送」で飛び交わせている危険
前号までに、センシティブなプライバシー情報に対する国分寺市の認識が希薄すぎるがゆえに、アンケートの中身が大変危険になっており、しかもそれが国分寺市に集積されてしまう問題について記事にしました。
今号では、その危険な中身が記載されている本アンケートの送受方法が「郵送」で取り扱われていることによって、プライバシー情報の漏えいや悪用につながりかねない問題について記事にします。
前述してきたように、本アンケートの中身については、今回から個人情報が付加されているために、これでもかと言わんばかりに、プライバシー情報が詰め込まれたものになっています。
●個人情報が付加されることにより、アンケートの性格が一変「プライバシー情報の塊」に
具体的に本アンケートの設問例をあげてみると、
(例)設問として「家族構成:一人暮らし」「介護が必要になった理由:脳卒中」「現在の暮らしの状況:ややゆとりがある」「お住まいの形態:持ち家(一戸建て)」「外出を控えているか:はい」「外出を控えている理由は:障害(脳卒中の後遺症等)」「外出する際の移動手段は:タクシー」「身長・体重:160㎝、55㎏」「どなたかと食事を共にする機会は:月に何度かある」「もの忘れは多いと感じますか:はい」「周りの人から『いつも同じことを聞く』と言われますか:はい」「携帯電話やスマートフォンを利用していますか:電話のみ利用」「5分前のことが思い出せますか:はい」「人に自分の考えをうまく伝えられますか:あまり伝えられない」「自分で食品・日用品の買い物をしていますか:できるけどしていない」「自分で請求書の支払いをしていますか:できない」「自分で預貯金の出し入れをしていますか:できるけどしていない」「年金等の書類(役所や病院などに出す書類)が書けますか:はい」「新聞を読んでいますか:はい」「あなたの心配事や愚痴を聞いてくれる人:別居の子ども」「友人・知人と会う頻度はどれくらいですか:月に何度かある」「あなたは現在どの程度幸せですか:10点満点中5点」「お酒は飲みますか:時々飲む」「たばこは吸っていますか:吸っていたがやめた」「現在治療中、または後遺症のある病気はありますか:脳卒中、糖尿病、高血圧」「あなたは人生の最期の時をどこで迎えたいですか:自宅」等々・・・。(※下記資料参照)
これはアンケートの設問の一部ですが、これに今回のアンケートから個人情報の記入が求められ、宛名ラベルが貼付された状態で行われているのです。
(例)個人情報として「名前:山田太郎、住所:戸倉1−6−1、電話番号:123−456−7890、生年月日:1917年9月1日、年齢:100歳、性別:男」・・・といった具合です。
これらの情報が集積された「本アンケート用紙」というのは、恐ろしいほどプライバシー情報の塊になっていると言えるのではないでしょうか。
そして、この「プライバシー情報の塊」が記載された「本アンケート用紙」が「郵送」という形で、市内中でやり取りされてしまっているのです。
はっきり言って、私の感覚では、到底理解できません。
※下記資料は「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」の設問ページの一部(シリーズ①資料も参照)
●マイナンバー制度と比較しても比較にならないほど危険な情報を「普通郵便」で?
高齢者の方々の、こういったプライバシー情報については、昨今多発している「オレオレ詐欺」や「保険金詐欺」などを行う「犯罪者集団」にとってみれば、のどから手が出るほど取得したい情報になっているのではないでしょうか。
また「犯罪者集団」だけでなく、顧客を囲い込みたい「介護事業者」や、その他さまざまな高齢者向けのビジネスを手掛ける「企業」などにとっても、非常に価値のある代物になりうるのではないでしょうか。
しかし、もしこれらの情報が、国分寺市以外の方々に漏洩するようなことがあれば、当の市民にとっては、迷惑千万であり、犯罪や勧誘にさらされることになります。こんなことは絶対にあってはならないことです。
だからこそ、このようなアンケート情報については、基本的には個人情報と結び付けて収集することはしないことが原則なのです。どうしても取り扱わなければならない際には、きわめて厳格に対応することが絶対不可欠なのです。
実際問題、個人情報のやり取りとして危険視されている「マイナンバー制度」を例にとってみると、国分寺市から発送された「通知カード」は、プライバシー情報についての記載はありませんでしたが、「個人情報」と「マイナンバー」が記載されており、厳格な取り扱いが求められました。
その結果、「郵送」ではありましたが「普通郵便」ではなく、「簡易書留」という形で、郵便局が引き受けから配達までの送達過程を記録し、本人が受領することを前提とした取り扱いがなされました。
「個人番号カード」についても、受け取りの際には顔認証システムなども導入されて、本人が受け取ることを確認して行われました。
この点でいうと、現時点においては、マイナンバー制度の「通知カード」や「個人番号カード」などと比較しても、比較にならないほど危険な個人情報とプライバシー情報が詰め込まれているのが「本アンケート用紙」です。
したがって、これらの市民の「プライバシー情報の塊」の「本アンケート用紙」を「郵送」で取り扱うこと自体、ありえないことであり、「プライバシー権の侵害」であると思うのです。
しかも、「書留」でなく「普通郵便」という形でのやりとりについても、不着や毀損などがあった際に、市民のプライバシ―情報の行方が分からなくなってしまう、という無責任問題にもつながってしまうのではないでしょうか。
※下記資料は国分寺市のホームページ「マイナンバー制度」より抜粋(赤線は幸野が加筆)
●国分寺市の対応も、国の手引きも、大問題
この点について、市の見解はというと、3月15日の市議会・予算特別委員会では
高齢者相談室長は「国分寺市においては、2万2789人に及ぶかなりの対象者を基礎調査の対象としておりますので、訪問で情報を収集するというのはなかなか難しいと考えていますので、今回『郵送』という形で実施している」
5月16日の一般質問で、改めて市の見解を伺うと
福祉保健部長は「郵便であっても信書であるので、個人情報保護は保障される」と答弁し、全く意に介していません。
国分寺市の姿勢と対応は、あまりに無頓着であると言わなければなりません。
一方で、前号の記事【「高齢者福祉に関するアンケート」は危険すぎる!②】の末尾に記載したように「国からの手引き」において「他地域との比較の観点から、郵送調査を原則としてください」という記載があるため、全国の自治体でも「郵送」で実施されている危険性があります。
しかし、国分寺市が行っているような「記名式」で「個人情報」が入っているアンケート用紙は問題になりますが、個人情報を扱っていないアンケートであれば、たとえ「郵送」であったとしても大事には至らないのです。
この点で、やっぱり国分寺市の対応は大問題だと言わなければならないのです。
すでに実施されてしまっているもとで、事件や事故が起きないことを祈るばかりです。